質量のナゾと魅力
人びとの暮らしの身近な存在であり、経済取引の基盤となる「質量」。文部科学省の新学習指導要領によれば、小学校3年の3学期に「重さの単位(g,kg,t)」を学ぶのが標準とされています。それ以降、幾度となく計測したり、確認したりして慣れ親しんできたはずの質量ですが、実はとても奥が深い「量」なのです。そのナゾと魅力についてご紹介します。
「質量」と「重量」
日常生活においては、「質量」と「重量」は同じ意味で使われることが多いでしょう。しかし、この二つは決定的に違います。質量とは、「その物体を構成している物質の量」(単位はkg)をいい、物体がどこにあっても不変固有の量です。一方、重量とは、「その物体に作用する重力の大きさ」(単位はN)をいい、物体がある場所の重力加速度によって変わります。古来より曖昧であったこの二つの量の峻別は、350年以上前にニュートンが発見した運動の法則により確立されたと言われています。とはいえ、わが国の現行の法令においても、質量の意味で重量の語を慣用的に使い続けているものもあります。例えば、道路運送車両法では車両総重量という語を用いていますが、この物質量は質量です。したがって道路交通法の過積載に該当する質量であれば、わが国のどこで検問されても、違反になります。なお、クボタが製造、販売するはかりは質量計です。
質量の起源(どこからきたのか?)
さて、ここからはロマンをかき立てるテーマ、質量の発生原理について触れます。実は、そのナゾは最新科学でも完全には解明されていないのです。「質量の起源の理解につながる機構の発見」の業績で2013年のノーベル物理学賞を受賞したアングレール氏、ヒッグス氏の2名が考案した「ヒッグス機構」が有力的であり、いま世界中の科学者たちがその実証実験に取り組んでいるそうです。とても一般人には理解できない内容ですが、ヒッグス機構と呼ばれる質量獲得の仕組みのおかげで、われわれの宇宙では素粒子が質量を獲得し、原子や分子が構成され、星や銀河が生成し、そして私たち人類が存在しているという理論です。そして、質量の獲得は、私たちの宇宙が誕生したときに遡るとのこと。目に見える「長さ」や「かさ」とは違い、質量には底知れぬ奥深さがあるようです。
質量保存の法則の不思議
もう一つ、物理学および化学の法則である「質量保存の法則」をご紹介しましょう。物質の変化には、物理変化と化学変化がありますが、そのいずれの場合にも変化の前後で物質の総質量は不変である、という法則です。例えば物理変化では、氷が解ける、水に食塩を溶かす、化学変化ではガスが燃焼する場合などにおいても総質量は変わらないということ。これもとても不思議なことではないでしょうか。例えば、地球の重さは、西暦0年(世界人口3億人)と2023年(同80億人)とで同じであるということになります。超高層ビルが林立する現在と低層の住居しかない大昔とで同じ質量だなんて。もっとも隕石の到来や人工衛星の打ち上げ、核反応などの分は除きますが。こう考えると、悠久の歴史における質量の不変性を感じずにはいられません。